このページでは性行為感染症として、クラミジア・淋菌感染症・ヘルペス感染症・尖圭コンジローマ・梅毒感染症を解説します。
また外陰部の感染性疾患の一部であるバルトリン腺嚢胞(膿瘍)についても説明します。
クラミジア感染症・淋菌感染症
原因・症状
クラミジア感染症・淋菌感染症ともに、性行為により子宮頸管に感染します(1)。感染に気づかないまま放置しておくと、上向性に子宮内に感染が進行します(2)。またさらに卵管を通じおなかの中に感染が進行します(3)。
症状はほとんどないことも多く、おなかの中にまで感染が進行した重症な場合には骨盤腹膜炎(PID)として激しい腹痛を起こすこともあります。
卵管の感染は将来不妊症の原因となり、妊娠した場合でも子宮外妊娠のリスクが増加するといわれています。
検査
子宮頸管・膣分泌物内にクラミジア・淋菌の存在を確認します。
クラミジアに関しては血液検査を併用する場合もあります。
治療
いずれも抗生物質による治療になります。セックスパートナーも同時にお薬を飲みましょう(片方が治っても、また感染を起こす可能性があるためです)。
(処方例)
クラミジア感染症:
アジスロマイシン(商品名ジスロマック)1000mg(250mg錠4錠))1回内服
クラリスロマイシン(商品名クラリス)1日400mg(200mg錠2錠)14日間
(いずれも飲み薬です)
淋菌感染症:
セフトリアキソン(商品名ロセフィン) 1.0g 静注 1回
セフォシジム(商品名ケニセフ) 1.0g 静注 1回
バルトリン腺嚢胞(膿瘍)
突然外陰部が腫れてすごい痛みに襲われる。そんなつらい経験をされた方も少なくないと思います。
ここでは、外陰部の感染症として起こるバルトリン腺膿瘍について解説します。
1 バルトリン腺って何?
バルトリン腺はセックスがスムーズにできるように、性的に興奮した時に粘液を分泌して外陰~膣に潤いをあたえます。バルトリン腺は膣の入り口の時計方向の5時と7時の方向にあります。
通常の状態では、触ってもどこにあるか分かりません。
2 バルトリン腺嚢胞、バルトリン性膿瘍って何?
バルトリン腺嚢胞
バルトリン腺の出口が何らかの原因で閉鎖してしまうと、バルトリン腺の中で作られた分泌物が外へ流れることができなくなります。このため、バルトリン腺が拡大して嚢胞を形成します(水風船を思い浮かべていただくと分かり安いかもしれません)。これがバルトリン腺嚢胞です。
閉鎖した腺の出口が再開通し、自然に軽快することがあります。中に感染していない場合には痛みはありません。
バルトリン腺膿瘍
バルトリン腺嚢胞の中に感染を起こした場合に「膿瘍」となります。この場合は激しい痛みを伴い、座ることもできないくらいになります。外陰部は大きく腫れて触るだけで痛みを伴います。
内部には膿が貯留しています。
3 バルトリン腺膿瘍の治療は?
① 穿刺→内容物吸引、抗生物質投与
膨らんだ部分を注射針で穿刺し、内容を吸引します。その後抗生物質を投薬し、感染の治療を行います。しかし、この方法は穿刺した針の穴がふさがるため、再発する場合が多くなります。
② 開窓術(造袋術)(イラスト)
バルトリン膿瘍部分の皮膚を切除し、内部とつながるようにする小手術になります。内部に貯まった膿を持続的に外に排出することで、感染症状が落ち着いてきます。
手術は局所麻酔でも可能ですが、痛みに対する恐怖感の強い方などは静脈麻酔(眠っている間に手術が終わります)で行います。
※ 静脈麻酔の場合には手術当日の絶飲食が必要です。
※ バルトリン腺膿瘍の治療は日帰りで可能です。
性器ヘルペス感染症
性行為により単純ヘルペスウイルスが感染することで起こります。このウイルスはいったん感染すると完全に治ることはなく、
症状が悪くなったり(再燃)、良くなったり(寛解)します。症状は初めての感染の時に最も強くあらわれます。
症状
(初感染の場合)
性行為で感染してから2~10日間の潜伏期間の後、最初は患部の表面にヒリヒリした感じやむずがゆさが起こります。
その後、1-2mmの小さなぶつぶつや水ぶくれができ、それが破れて皮膚がただれた状態(潰瘍)になり強い痛みを伴います。
38℃台の発熱を伴う場合もあります。
(再発の場合)
体調が悪いときや疲労・睡眠不足などの場合に再発することが多く、初感染の場合と同様な症状が起こります。しかし、症状は初感染の時と比べると軽い場合が多くなります。
診断
典型的な皮膚症状で診断することが可能です。
症状から診断することが難しい場合には血液検査を併用します。
治療
内服治療が基本になります。
(処方例)
バラシクロビル(バルトレックス) 1日1000mg 5日間
尖圭コンジローマ(パピローマウイルス感染症)
ヒトパピローマウイルスが性行為によって感染することが原因となります。外陰部~膣内にイボができます。
症状
外陰部~肛門周囲にイボができます。
診断
特徴的なイボですので、視診で診断が可能です。
治療
外陰病変に対してはイモキミドクリーム(商品名 ベセルナクリーム 5%)を1日1回 週3回 就寝前に塗布します。
起床後に薬剤を石けんなどで洗い流します。16週間を限度に治療を継続します。
その他には、液体窒素で冷凍する方法、CO2レーザーで焼灼する方法、また外科的に切除する方法があります。
※ ウイルス自体を完全に取り除くことは難しく再発の可能性があります。
梅毒感染症
性行為により梅毒トレポネーマにより感染することで起こります。
感染に気づかないまま長期間経過すると心臓・神経にも感染が進行し、生命に関わることもあります。
妊娠した場合には、おなかの中の赤ちゃんに胎内感染し、先天梅毒の原因となります。
近年、感染者が増加していることが問題になっています。
症状
潜伏期間は3週間とされています。
第1期梅毒(~3週間):感染の局所の症状が起こります。
局所にしこりができます。また、太ももの付け根のリンパ節が腫れます。
(しばらくするとこれらの症状は消えます)
第2期梅毒(3~12週間):
梅毒が血液に入り全身に広がります。
ピンク色の円形のあざ(梅毒性バラ疹)が顔や手足に出ます。
脱毛症状
第3期梅毒(3年以上経過)
心血管系・神経症状へ進行し重症化していきます。
検査
血液検査で梅毒に対する抗体を調べることで診断します。
治療
ペニシリン系の薬剤がよく効くため病期に合わせてお薬を使用します。
(処方例)
アモキシリン(商品名 サワシリン・パセトシン) 1日1.5g
アンピシリン(商品名 ビクシリン)1日2.0g
※ 治療期間は病期により異なります。
(第1期2~4週間、第2期4~8週間、第3期8~12週間)